プロを目指すので負の面も知っておこうと思う(事故編) ~あの航空機事故はこうしておきた~

プロパイロットを目指す理由

  • 色々な所に行ってみたい
  • 色々な人に会ってみたい
  • とにかく上空にいたい(空を飛んでいたい)
  • 飛行機が好きすぎる
  • エンジンが好きすぎる

プロパイロットを目指す理由は人それぞれです。上記は、私が今まで会ったてきた同じような志を持った仲間たちの「プロパイロットを目指す理由」です。
正解なんてありませんし、結局は理屈では無いのかもしれません。やってみたいから、好きだから・・・。

しかし、それで話が済めば世の中苦労はありません。
何事でもプロを目指す以上、自分自身を含む誰かを納得させなければいけない場面が必ずやってくるでしょう。
そのときのために自分の目標(やりたいこと)の負の面も知っておくことは、自分が何かをやる理由をより明確に、より力強くしてくれるはずです。

少し前置きが長くなりましたが、プロパイロットの負の面を知るために航空機事故を取り扱う書籍を三冊読みましたので、記録を残しておきます。## 航空機事故に関する書籍を三冊を読んで(総論)

「全体最適と部分最適のせめぎ合い(バランス)」

これから紹介する三冊の本を読んで、殆どの航空機事故に共通する根本的な題材を自分なりの言葉で表現するとこうなりました。

経営的な立場と操縦者的な立場での板挟みからくる心理的プレッシャー、機長を立てるための不明瞭なコミュニケーション、整備を早く終わらせるための手順の導入、、、

一見すれば何てことないことですが、これらは全て私が読んだ書籍の中で事故に繋がった原因の一つとして言及されていることです。

全体最適と部分最適がバランスしないのは現実世界では良くあることですが、バランスしないことで発生するのは部下の離反、営業成績の低下、旧態依然のテクノロジーを使用した管理などが関の山ではないでしょうか。全体最適と部分最適がバランスしないが故に死に繋がるという状況は多くはないはずです。

ですので、エアラインを始めとする航空ビジネスにまつわる組織のトップは非常に難しい仕事をしているのだなぁと、私は考えずにはいられませんでした。

エアラインは組合が厄介だ

映画ウォール街に登場するゴードン・ゲッコーという稀代の投資銀行家が放つ一言ですが、彼も航空機事故関連の書籍を読めば、敢えて「組合が」厄介だとは言わなくなるのではないでしょうか。

あの航空機事故はこうして起きた(一冊目)

実際に起きた8つの航空機事故を題材に元日航パイロットの著書が各種事故の分析をまとめた一冊になっています。下記は本書の目次(左側)と簡単な事故の原因(右側)を付記したものです。

  1. 日航123便ジャンボ機墜落事件|**垂直尾翼の異常**
  2. コメット機事故調査に学ぶ安全|**窓の形(切り欠き脆性)**
  3. ボーイング377「ストラトクルーザー」の不時着水|**プロペラの過回転**
  4. 世界最大の死者ロス・ロディオス空港ジャンボ衝突事故|**濃霧、空港設備の不良、不明瞭な航空通信、心理的プレッシャー**
  5. DC-10スーシティ事故が見せた41分間のドラマ(スーシティ、ゲートウェイ空港緊急着陸)|**2番エンジンの停止(油圧系統を作動させる油の枯渇)**
  6. 英国航空9便ジャンボ40分間の苦闘(ジャカルタ空港緊急着陸)|**火山灰によるエンジン不良、速度計異常、通信異常、景気不作動など**
  7. 名古屋空港、中華航空エアバスA300墜落事故|**自動操縦装置と手動操縦の競合、意図しない操作、曖昧なコミュニケーション**
  8. 羽田沖、全日空ボーイング727墜落事故|**3番エンジンの不良(公式的には原因不明とのこと)**

過去に実際に発生した事故については Aviation Accident ~ で検索したり、運輸安全委員会等で簡単に情報を得ることができます。そのため、レポート等を頼りに特定の事故を研究をすることは誰にでもできることです。

しかし、現代よりも多くの航空機事故が発生していた時代のパイロットの視点で各種の事故を分析することは不可能です。事故についてのレポートや記録は残っていても、当時の社会情勢・政治的な思惑等は見落としがちで、把握しづらいためです。本書では、これらも踏まえて一つの事故を深く分析をしているので非常に勉強になりました。二度、三度と読んで行きたい書籍です。

運輸安全委員会によると、運輸安全委員会が調査した事故の件数だけでも、2016年は航空事故が13件ほどあったようです。これらは当然日本国内だけの統計ですので、月に一回以上は運輸安全委員会が動くような航空事故が国内で発生していることになります。

航空事故の統計

つまり、本書で取り上げられている航空事故は悲惨で非常にインパクトが大きいものが殆どですが、大海の一滴に過ぎないという事実が統計からみてとれます。航空事故は想像よりも身近にあるのかもしれません。

航空産業は多大な犠牲の元に発展しており、私たちは「巨人の肩に立っている」という事実を忘れてはならないという思いを強くしました。

機長の心理学(二冊目)

タイトルこそ「機長の心理学」ですが、心理学に限定されない、より抽象的な内容を含んでいます。体裁を変えれば研究論文にもできそうな内容満載のヘビーな一冊です。三冊の中では一番のオススメです。様々な事故をかなり具体的な事象までブレイクダウンしていて、最も実学的だからです。

ここ25年間で、飛行機事故のおよそ70パーセントの原因が「パイロットエラー(パイロットのミス)」あるいは「ヒューマンエラー(人的ミス)」とされている。

7割を占める「パイロットエラー(パイロットのミス)」あるいは「ヒューマンエラー(人的ミス)」を引き起こす原因やそれ自身を著者は「航空界最後で最大の未開地」と定義しており、この分野の研究や取り組みが充分でないことを訴えています。

この分野の研究や取り組みがインパクトを与えるのは航空産業だけでなく、ほぼ全ての産業です。可能であれば人類の限りあるリソースを一定数投下するべきなのかもしれませんが、人類にはより優先順位の高い取り組まなければならない問題が山積しています。同時にそれらの問題も中々解決の糸口が見えないものが多く、「航空界最後で最大の未開地」が開拓されるのには暫く時間がかかりそうな気はします。

私自身は、どんな形であれ将来少しでもこの分野の研究や取り組みに貢献していきたいです。興味が尽きません。

たいていはシステムのなかにすでにミスが積み重なっていて、そこにパイロットのミスが決定的な打撃となるのである。

ITコンサルタントとして業務についていた経験を持つ私は、この文章を読んである図が真っ先に思い浮かびました。”tire swing cartoon”と検索すると大量にでてくる画像です。

興味があれば調べてみると面白いですが、今回の文脈に合わせて使うとすれば、些細なヒューマンファクターの重なりによって本来必要だったものは無視され、本来必要だったものから全くかけ離れたものが出来てしまうことを揶揄している風刺画です。

どこの業界にも似たようなことがあるわけですね。

蛇足ですが、本書を読んで「自分の小さな「箱」から脱出する方法」という本も思い出しました。航空関連ではありませんが、こちらもまたオススメです。普段の生活の中の自分が人間として、どれだけ修行不足かが実感できます。

機長が語るヒューマン・エラーの真実(三冊目)

現役パイロットの著者が実際に起こった大小様々な航空機事故を「ヒューマン・エラー(人的ミス)」という観点から分析しています。

ヒューマン・エラー(人的ミス)の誘発因子(原因)とも説明できるような事柄がコンパクトに分類・整理されているので、一度読めば目次をパラっと見るだけで読んだ内容が思い浮かびます。ある意味で前述の一冊目を補完できる内容になっています。

本書を通じて感じたのが、著者がハイテク機(主にエアバス)の設計思想に感じている違和感です。独りよがりの開発になってしまっている製造メーカーがそこにはあるのかもしれません。

時間があれば一冊目と併せて読んで見ると良いです。

本当の原因

今回紹介した書籍でも触れられていますが、本当の事故の原因を調査することが最も重要で、単なるパイロットの操縦ミスで片付けてしまうと同種の事故が起こり続けてしまいます。

責任者を立てて、全責任をその責任者だけに負わせるというのは一見すると正しいことのように見えます。事実、組織の運営や管理という面では正しいと思います。しかし、航空機事故という側面に限ってはあまりワークしていない雰囲気が各書籍(プロパイロットの方たち)から伝わってきています。責任者を明確にすることよりも事故の原因を明確にすることが求められるからですね。

本当の原因を突き止めて対策を打つ。こんな当たり前のことが当たり前にできる世の中になるといいですね。